ウクライナ避難民 を日本の難民制度における比較解説

2022年2月からのウクライナ人の大量国外避難に伴って、日本でもこれまでになかった避難民という地位を作って ウクライナ避難民 へ特別な対応を行いました。この事例が今後の難民政策を変えていく導火線となるかもしれず、方向性が気になります。

日本は難民に厳しい、もっと受け入れろ、などの議論がある一方で、移民と同じく本当に受け入れ可能かといった慎重論も根強くありました。6月10日からは退去強制の手続きを厳格にし、3回目以降の 難民認定申請 の際には基本強制送還とする改正が施行されるなど、国の難民政策は揺れています。

ウクライナ紛争をきっかけに注目を浴びたこれらの制度を解説してまいります。

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日本での 難民認定申請 の歴史

難民の地位に関する条約及び難民の地位に関する議定書が1982年に我が国について発効したことに伴い、難民条約及び議定書の諸規定を国内で実施するため、難民認定制度が整備されました。

難民の定義

1951年1月1日前に生じた事件の結果として、かつ、人種、宗教、国籍もしくは特定の社会的集団の構成員であることまたは政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために、国籍国の外にいる者であって、その国籍国の保護を受けることができない者またはそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まない者及びこれらの事件の結果として常居所を有していた国の外にいる無国籍者であって、当該常居所を有していた国に帰ることができない者またはそのような恐怖を有するために当該常居所を有していた国に帰ることを 望まない者。

二以上の国籍を有する者の場合には、「国籍国」とは、その者がその国籍を有する国のいずれをもいい、迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するという正当な理由なくいずれか一の国籍国の保護を受けなかったとしても、国籍国の保護がないとは認められない。

参考:難民の地位に関する1951年の条約 第1条A(2)

難民の要件

難民条約第1条A(2)で定義された難民の要件は、以下のとおりです。

(a)人種、宗教、国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見を理由に、迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有すること

(b)国籍国の外にいる者であること

(c)その国籍国の保護を受けることができない、又はそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まない者であること

難民認定 で享受できる権利又は利益

難民の認定を受けた外国人は、次のような権利又は利益を受けることができます。

1 安定した在留資格の付与:原則として在留資格「定住者」が付与されます。

2 永住許可要件の一部緩和:難民の認定を受けて在留する外国人は、独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有することの要件を満たさない場合であっても、法務大臣の裁量により永住許可を受けることができます。

3 難民旅行証明書の交付:難民旅行証明書を所持する外国人は、その証明書に記載されている有効期間内であれば、何度でも日本から出国し、日本に入国することができます

4 難民条約に定める各種の権利:原則として締約国の国民あるいは一般外国人と同じように待遇され、我が国においては国民年金、児童扶養手当、福祉手当などの受給資格が得られることとなっており、日本国民と同じ待遇を受けることができます。

難民認定申請 の変遷

難民条約への加入の背景としては、日本では1975年代前半のインドシナ難民の大量流出を契機に、難民問題に関する議論が急速な高まりを見せました。

難民条約への加入に当たり、従来の出入国管理法令を改正し、新たに難民認定制度を導入するとともに、法律の名称も「出入国管理及び難民認定法(入管法)」と改称しました。その外国人が難民条約に定義された難民に該当するか否かの判断(難民の認定)は、法務省の出入国在留管理庁が所管しています。

1982年の難民認定制度導入から、令和3年までの申請数は91,664人で、うち難民と認定されたものは1,117人、難民と認定しなかったものの、人道上の配慮を理由に在留を認めたものは5,049人となっています。

なお、1978年から受け入れが終了した2005年末までのインドシナ難民定住受入れ数は11,319人で、近年ではほとんどが「合法出国計画」による家族再会のための受け入れとなっていました。

参考:国内における難民の受け入れ、外務省

インドシナ難民が難民政策のきっかけ

かつて日本では難民と言えばインドシナ難民、と記憶される事件が約40年前にアジアで起こりました。遠く離れたウクライナとは異なり、日本近海までボートで領海に接近するなど過去にない緊迫した状況となりました。

インドシナ難民とは

1975年のベトナム戦争終結後、インドシナ3国(ベトナム・ラオス・カンボジア)では新しい政治体制が発足しました。これらベトナム難民、ラオス難民、カンボジア難民を総称して、「インドシナ難民」と呼んでいます。その体制になじめない多くの人々が、アジア地域の難民キャンプを経由して、アメリカ、オーストラリア、カナダ、日本などの国々に移住しました。

インドシナ難民の総数は約144万人にのぼりますが、そのうち130万人はボートでの移動を経たといわれます。

日本とインドシナ難民との関係

1975年4月末の旧南ベトナム政権崩壊以降、ボート・ピープルの流出が激化し、翌月には日本へも初めてボート・ピープルが到着しました。ボート・ピープルの到着は、昭和50年には9隻126人、51年には11隻247人でしたが、52年には25隻833人へと急増、54年から57年の4年間は毎年1,000人台を記録しました。

国内外からの要請に応えるため、政府は1978年4月の閣議了解によりベトナム難民の定住を認める方針を決定しました。定住許可の条件は、当初設定されていた定住枠の撤廃、ラオス難民、カンボジア難民への対象の拡大など順次緩和されました。

1979年に39万人とピークを迎えたインドシナ難民の流出は、家族再会や人道的なケースの場合に限りベトナムからの合法出国を認めるという合法出国計画(ODP:Orderly Departure Program)が開始され、減少を続けました。

1987年に再び増加に転じ、主として貧困による生活苦から逃れ、より豊かな生活を求める出稼ぎ目的のボート・ピープルの流出と認められたことから、1989年6月に開催されたインドシナ難民国際会議において対策が協議されました。

その後はインドシナ難民の流出は激減し、1997年以降にボート・ピープルの日本への上陸は発生していません。

受入れ状況

1978年から受け入れが終了した2005年末までの、インドシナ難民への定住受入れ数は11,319人を数えました。内訳は以下の通りです。

  • ボート・ピープル 3,536人(31%)
  • 海外キャンプ滞在者 4,372人(41%)
  • 合法出国者(ODP) 2,669人(21%)
  • 元留学生など 742人(7%)

合法出国者(ODP)とは、南シナ海を漂流中のボート・ピープルについて、悪天候による遭難または海賊に襲撃を受けるなど、人道上看過できない状況に対応したものです。

難民条約との関係

インドシナ難民の受け入れは、人道上の国際協力という面のみならず、アジアの安定という面からも重要と考えられます。日本が難民条約に加入する以前から、同条約とは異なった立場において実施しているものです。

逆に、インドシナ難民をきっかけに難民条約にも加入したと言えます。よって、インドシナ難民については、個別に難民性の審査は行われていませんが、国内での処遇については条約難民に準じた配慮が払われています。

ウクライナ避難民 補完的保護対象者への認定

ウクライナ人を念頭に新たに作られた資格、補完的保護対象者。難民とも異なり、避難民であることが定義されています。

補完的保護対象者 の定義

法務大臣は、日本にいる外国人から 難民認定申請 がなされると、難民認定を行います。

また、法務大臣は、日本にいる外国人から 補完的保護対象者である旨の認定の申請 がなされると、補完的保護対象者である旨の認定 を行います。

法務大臣は、本邦にある外国人から法務省令で定める手続により難民である旨の認定の申請があつたときは、その提出した資料に基づき、その者が難民である旨の認定(「難民の認定」)を行うことができる。

2 法務大臣は、本邦にある外国人から法務省令で定める手続により補完的保護対象者である旨の認定の申請があつたときは、その提出した資料に基づき、その者が補完的保護対象者である旨の認定(以下「補完的保護対象者の認定」という。)を行うことができる。

3 法務大臣は、第一項の申請をした外国人について難民の認定をしない処分をする場合において、当該外国人が補完的保護対象者に該当すると認めるときは、補完的保護対象者の認定を行うことができる。

4 法務大臣は、第一項の申請をした外国人について、難民の認定をしたときは、法務省令で定める手続により、当該外国人に対し、難民認定証明書を交付し、その認定をしない処分をしたときは、当該外国人に対し、理由を付した書面をもつて、その旨を通知する。

5 法務大臣は、第一項又は第二項の申請をした外国人について、補完的保護対象者の認定をしたときは、法務省令で定める手続により、当該外国人に対し、補完的保護対象者認定証明書を交付し、同項の申請があつた場合においてその認定をしない処分をしたときは、当該外国人に対し、理由を付した書面をもつて、その旨を通知する。

出入国管理及び難民認定法 第61条の2

補完的保護対象者 の申請手続

申請に際しての必要書類が4種類必要です。なかでも、申請者が補完的保護対象者であることを証明する資料、もしくは主張する陳述書は慎重に準備します。

なお、難民申請と提出物の種類は同じです。

  1. 難民・補完的保護対象者認定申請書
  1. 写真(縦4cm×横3cm)
  1. 申請者が難民若しくは補完的保護対象者であることを証明する資料
  1. 更に以下の書類の提示

a. 旅券又は在留資格証明書

b. 在留カード(在留カードを所持している場合)

c. 仮上陸の許可、乗員上陸の許可、緊急上陸の許可、遭難による上陸の許可又は一時庇護のための上陸許可を受けている外国人はその許可書

d. 仮放免中の外国人は、仮放免許可書

こうした法的な根拠に基づき、ウクライナ避難民であることの証明書等が発行されていますので次に紹介します。

ウクライナ避難民 であることの証明書

 「ウクライナ避難民であることの証明書」は、命が危ないためウクライナから日本に来たということを、日本の人に知らせるためのものです。2023年11月で発行は終了しています。 

この証明書は、地方公共団体等で支援を受けたり、行政手続を行ったりする場面で見せることや、金融機関での口座を作るときに、在留カード等の本人確認書類といっしょに担当の人に見せることを想定しています。この証明書を持っていない場合は、パスポートに押されている「ウクライナ避難民」のスタンプを地方公共団体や金融機関の方に見せます。

ウクライナ避難民
ウクライナ避難民

この証明書がお手元に届くまでの間は地方公共団体等において、ウクライナ避難民であることが確認できるよう、2023年3月3日に入国された方から、パスポートの上陸許可証印の下に「ウクライナ避難民」のスタンプを押印していました。

ウクライナ避難民 スタンプ
ウクライナ避難民 スタンプ

ウクライナに対しては、従来の制度にはない特別な対応をとっております。

参考:日本に在留しているウクライナのみなさんへ、出入国在留管理庁

ウクライナ避難民 の享受できる権利又は利益

ウクライナ避難民 のように補完的保護対象者の認定を受けた外国人は、次のような権利又は利益を受けることができます。しかしながら、難民と比べると待遇が劣ります。認定しやすい新しい資格を作りながらも、なぜ別にしたのかが表れています。

1. 安定した在留資格の付与

補完的保護対象者の認定を受けた外国人には、難民の認定を受けた外国人と同様、原則として在留資格「定住者」が付与されます。

難民の権利と同じです。

2. 永住許可要件の一部緩和

在留資格を有する外国人が永住許可を受けるためには、(1) 素行が善良であること、(2)独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有することの2つの要件を満たし、かつその者の永住が日本国の利益に合すると認められなければならないとされています。しかし、補完的保護対象者の認定を受けて在留する外国人は、このうち(2)の要件を満たさない場合であっても、法務大臣の裁量により永住許可を受けることができます。

難民の権利とほぼ同じです。

3. 定住支援プログラムへの参加

補完的保護対象者の認定を受け、希望する外国人は、日本で自立して安定した生活を送ることができるようになることを目的とした定住支援プログラムに参加できる場合があります。

ここは、難民とは待遇が大きく異なります。

難民は日本人と同じ待遇 ⇔ 補完的保護対象者は定住支援プログラムへの参加のみ

具体的には、難民であれば難民条約に定める各種の権利として、原則として締約国の国民あるいは一般外国人と同じように待遇され、我が国においては国民年金、児童扶養手当、福祉手当などの受給資格が得られることとなっており、日本国民と同じ待遇を受けることができます。

他にも、補完的保護対象者の認定を受けた外国人は、難民の認定を受けた外国人が交付を受けられる難民旅行証明書の交付を受けることはできませんが、再入国許可書の交付を受けることはできます。難民であれば難民旅行証明書の交付を受け、所持する外国人は、その証明書に記載されている有効期間内であれば、何度でも日本から出国し、日本に入国することができます。

参考:補完的保護対象者認定制度 | 出入国在留管理庁

インドシナ難民から ウクライナ避難民 まで 難民受け入れの歴史

1975年のインドシナ難民の受け入れを契機に、1981年に「1951年の難民の地位に関する条約」、1982年に「難民の地位に関する議定書」に順次加入し、日本は同条約・議定書上の難民に該当する外国人を難民として認定し適切な保護を行ってきました。日本の加入から40年近くが経過しましたが、その間も難民の認定率が低く申請数も少ないなどと国際的にも非難されることがありました。

一方で、近年、紛争避難民のように、迫害を受けるおそれがある理由が、難民条約上の5つの理由である人種、宗教、国籍、特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見のいずれにも該当せず、条約上の「難民」に該当しないものの、保護を必要とする外国人が世界各地に存在しています。

このような、条約上の「難民」ではないものの「難民」と同様に保護すべき紛争避難民などを確実に保護する制度として、2022年のウクライナ紛争によって世界中で難民問題がクローズアップされ、日本でも2千人近い方の避難民としての受け入れが例外的に決まりました。そして、2023年12月より、日本では補完的保護対象者の認定制度が始まっています。

難民・補完的保護対象者認定申請書を記入していくのは大変な作業です。家族構成から、学歴、職歴をはじめ、難民となった理由などの説明を求められます。ウクライナのように、国全体で補完的保護対象となっている場合を除き、難民となった説明には慎重さが求められますので最新の情報を備えた専門家である行政書士にご依頼ください。

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