『外国人から日本の平和を守る』とは何か――入管行政から読み解く、永住・帰化審査がこれから変わる理由

近年、日本に在留する外国人の数は急増し、もはや一時的な労働力補完ではなく、外国人が地域社会の構成員として生活することを前提とした社会へと移行しつつある。
こうした状況を踏まえ、政府は「 外国人との秩序ある共生社会の実現のための有識者会議 」を設置し、令和8年1月14日付で意見書を公表した。

この意見書が繰り返し強調しているのは、「外国人排除」ではない。むしろ、多くの外国人は勤勉で、日本社会に貢献している存在であるという評価を明確に示した上で、国民と外国人双方が安全・安心に暮らせる社会を構築する必要性を説いている。

一方で、在留外国人の増加により、これまで想定されていなかった制度上の歪みや、一部の社会規範逸脱行為に対する国民の不安が顕在化していることも、正面から認めている。そのうえで意見書は、「秩序は社会の土台であり、多様性は社会の力である」とし、秩序と共生を対立概念として捉えるべきではないとの立場を明確にしている。

入管業務を専門とする行政書士の立場から、この意見書が示した方向性を読み解きながら、在留管理、土地取得、そして将来的に避けて通れない永住・帰化制度の運用が、どのような一本の線でつながっていくのかを整理していきます。

外国人との秩序ある共生社会の実現のための有識者会議
外国人との秩序ある共生社会の実現のための有識者会議

「外国人排除」ではない――政府文書が明確に否定していること

「外国人との秩序ある共生社会」という言葉を目にしたとき、
一部では「外国人に対する締め付け強化ではないか」「排外主義に傾くのではないか」といった懸念が語られることがある。
しかし、今回の有識者会議意見書を精読すると、そのような理解は明確に否定されていることが分かる。

意見書はまず、我が国に在留する外国人の多くが、
勤勉に働き、社会規範を理解し、地域や産業を支える存在であることを明言している。
そして、日本社会が長年にわたり「内外人平等」を原則としてきた歴史を踏まえ、
外国人が社会の一員として尊厳をもって生きられる社会を構築すべきだと述べている。

その上で意見書が強調するのは、
問題視すべき対象は「外国人」という属性ではなく、「ルールを守らない行為」そのものである
という点である。
社会規範を逸脱する行為があれば、それが日本人であれ外国人であれ、
国籍に関わらず公正かつ厳正に対処すべきであると明確に記されている。

さらに重要なのは、意見書が
「秩序」と「共生」を対立する概念として捉えていないことである。
秩序は社会の安定を支える基盤であり、
多様性は社会の活力を生む力である。
この二つは相反するものではなく、
秩序があってこそ、多様な人々が安心して共生できる
という整理がなされている。

意見書が警戒しているのは、
事実関係や実態把握を欠いたまま、
憶測や感情論に基づいて外国人問題を語ることである。
そのため政府に対し、
正確な実態把握と、国民に対する適切な情報発信を行うことを強く求めている。

入管実務の現場に立つ行政書士の立場から見ると、
この考え方は極めて一貫している。
「外国人だから危険」「外国人だから制限する」という発想ではなく、
誰が、どの制度を、どのように利用しているのかを把握し、
問題があれば是正する

そのための制度設計を進めようとしているのである。

本意見書が示しているのは、
外国人排除でも、無条件受け入れでもない。
秩序を制度として可視化し、
守る人が正当に評価される社会を実現する

という、日本社会の成熟を前提とした方向性だと言える。

在留管理の発想が、土地・不動産にも広がっている

今回の有識者会議意見書を読む上で見落としてはならないのは、
外国人政策が「出入国・在留」だけに閉じた議論ではなく、
土地・不動産といった国土管理の分野にまで射程を広げている
点である。

意見書は、土地や建物の取得・所有・利用・管理について、
それが個人の生活に密接に関わる問題であると同時に、
地域社会、災害対策、さらには安全保障にまで影響を及ぼす
「高い公共性を有する資源」であると位置付けている。

「外国人だから規制する」発想は取られていない

まず確認すべきは、
この意見書が外国人による土地取得そのものを一律に禁止・制限する立場を取っていないことである。
意見書が繰り返し示している基本原則は、

  • 国籍を問わず守るべきルールの徹底
  • ルール違反の予防
  • ルールが守られなかった場合の公的関与の在り方の整理

である。

これは、入管行政で長年用いられてきた発想と極めて近い。
すなわち、「入口で排除する」のではなく、「中身を管理する」という考え方である。

土地分野で進められる「把握」と「見える化」

意見書が特に重視しているのは、
土地等の所有者に関する正確な情報把握である。

現行制度では、不動産登記簿に国籍情報がなく、
誰がどの国籍で土地を所有しているのかを横断的に把握できないという課題があった。
これに対し政府は、関連制度を横断する形で国籍把握の仕組みを整備し、
将来的には「不動産ベース・レジストリ」(令和9年度以降に整備)により
土地所有者情報を一元管理する方向性を示している。

また、外為法についても、
これまで対象外とされてきた「居住目的の不動産取得」まで報告義務を拡大することが示されており、
土地取得を止めるのではなく、把握するという姿勢が明確である。

外為法においては、これまで、国外居住者による不動産取得の報告対象は、投資目的等のみに限定されていたが、令和8年4月からは、居住目的を含め全ての不動産取得が報告対象となることが発表された。

入管行政との構造的な共通点

この土地政策の方向性は、
入管行政を専門に扱ってきた行政書士から見ると、
極めて既視感のある構造をしている。

在留資格制度もまた、

  • 入国自体は原則として可能
  • しかし在留中は、資格外活動、素行、納税、社会保険加入などを継続的にチェック
  • 問題があれば更新不許可や取消しという形で是正

という「管理型モデル」を採用してきた。

土地・不動産分野でも同様に、
取得の自由は維持しつつ、
誰がどのように利用・管理しているかを把握し、
問題があれば行政が介入できる体制を整えようとしているのである。

「規制しない」ことが、必ずしも「緩い」わけではない

意見書が示すこの方向性は、
一見すると規制に消極的にも見える。
しかし実務的には、
把握・管理・是正が制度として整備されることは、
単純な取得規制よりもはるかに実効性が高い

これは、入管行政の現場で、
「制度上は可能でも、実務上は極めて厳格に運用される」
ケースを数多く見てきた行政書士として容易に理解できる。

この「管理国家型」の発想は、
次章で述べるとおり、
在留資格の最終段階である永住
そして国籍取得である帰化の運用にも、
確実につながっていく。

この流れは「永住・帰化」にどう影響するのか

本意見書では、「永住」や「帰化」という制度名が正面から論じられているわけではない。
しかし、入管業務を専門とする行政書士の視点から読むと、
その方向性は、永住要件の運用や帰化審査の在り方に直結する内容であることは明らかである。

永住要件の運用厳格化は「例外」ではなく「必然」

意見書が繰り返し用いているキーワードは、
「定着」「社会の一員」「責任ある行動」「貢献」である。

特に、外国人が日本社会で生活するにあたり、
社会規範を守り、税や社会保険制度を理解し、
地域コミュニティの一員として行動することの重要性が強調されている。

永住許可とは、在留期間の制限を外し、
入管行政による継続的な管理を大幅に緩和する制度である。
だからこそ、
「本当に日本社会に定着し、秩序を守り続けると評価できるか」
という点が、これまで以上に重視されるのは必然と言える。

実務上すでに行われている、

  • 納税・年金・健康保険の状況確認
  • 素行要件の厳格な判断

は、今後さらに「なぜそれが必要なのか」を
制度理念として説明できる形で運用されていくと考えられる。

日本語能力・制度理解が「形式要件」になる可能性

意見書の中で、特に重要なのが、
日本語能力や社会規範・制度理解を学ぶプログラムの創設についての記述である。

意見書は、
外国人が入国前および入国後に、日本語や日本の社会規範、
各種制度について継続的に学習する仕組みが不足していることを問題視し、
国の責任で体系的なプログラムを提供すべきだとしている。

さらに踏み込んで、
中長期的に在留する外国人については、
こうしたプログラムへの参加を在留条件とすることも検討すべき

と明記されている点は、極めて重要である。

これは、永住申請や帰化申請において、

  • 日本語能力は「当然あるはず」と推定する
  • 制度理解は「生活状況から総合判断する」

という従来の暗黙的な運用から、
「一定の能力・理解を、客観的に確認する」方向へ進む可能性を示唆している。

言い換えれば、
「分かっている前提」から
「説明・証明できる要件」への転換である。

帰化審査に求められる「説明責任」の強化

帰化許可は、行政裁量の幅が広い制度であり、
申請者にとっては
「なぜ許可され、なぜ不許可なのかが分かりにくい」
という不満が生じやすい分野でもある。

しかし、意見書全体を貫く思想は、
制度運用の前提として、正確な実態把握と透明性を確保すべき
というものである。

「秩序ある共生社会」を掲げる以上、
帰化という最終的なステータス付与についても、
社会に対して一定の説明可能性が求められるのは自然な流れである。

これは、
帰化を厳しくするという意味ではない。
むしろ、

  • どのような努力が評価されるのか
  • 何が不足していると判断されたのか

を、より制度的に示していく方向性である。

永住・帰化は「権利」ではなく「信頼の到達点」

意見書が示しているのは、
外国人を排除する社会ではなく、
秩序を共有できる人を正当に評価する社会である。

永住や帰化は、
長年の在留実績の「ご褒美」ではなく、
日本社会との間に築かれた信頼関係の到達点と捉えるべき制度である。

在留段階での管理強化、
土地取得を含む社会的責任の明確化、
日本語能力や制度理解の可視化――
これらはすべて、
永住・帰化をより健全な制度として維持するための土台にほかならない。

行政書士として伝えたい本当のメッセージ

――「厳格化」とは冷たさではなく、秩序の可視化である

ここまで見てきたとおり、有識者会議意見書が示している方向性は、
外国人を排除するための政策ではない。
むしろ、外国人が増加する社会を前提に、秩序を制度として整備し直す
という、極めて現実的な対応である。

意見書の結びでは、改めて次の点が強調されている。
多くの外国人は勤勉で、日本社会を支える存在であり、
そうした人々が正当に評価され、尊厳をもって生きられる社会を実現することが使命である。
同時に、社会規範を逸脱する行為や、制度の不適切利用については、
国籍を問わず公正かつ厳正に対処する必要がある。

我が国に在留する多くの外国人は勤勉で社会規範を理解し、地域・産業を支えてくれて
いる。そうした外国人が正当に評価され、日本社会の一員として尊厳をもって生きられる
社会、そして、国民・外国人双方が互いに尊重し、安全・安心に生活し、共に繁栄する社
会を実現することが我々の使命である。他方で、我が国の社会規範を逸脱する行為に対し
ては、国籍に関わらず公正かつ厳正に対処し、また、在留する外国人の増加に対応できて
いない諸制度については、適正化していくことが必要である。

「厳しくなる=排除される」という誤解

入管業務の相談現場では、
「永住や帰化は、これからどんどん厳しくなるのですか」
という質問を受けることが少なくない。

しかし、今回の意見書を踏まえて言えるのは、
厳しくなるかどうかではなく、分かりやすくなる
という点である。

意見書が一貫して求めているのは、

  • 正確な実態把握
  • 明確なルール設定
  • ルールの言語化・可視化
  • そして、国民と外国人双方への丁寧な説明

である。

これは、
「行政が何を見て判断しているのか分からない」
という不信感を減らし、
守るべきことを守れば、正当に評価される社会を作るための前提条件でもある。

制度が明確になることは、外国人にとっても不利益ではない

永住や帰化の審査が、
日本語能力、制度理解、納税状況、生活の安定性といった点を
より客観的に確認する方向に進めば、
それは「締め付け」ではなく、
努力の方向性が明確になるという意味を持つ。

意見書が示している
「学習プログラムへの参加」や
「定着・貢献を基準とした評価」という発想は、
外国人に対して
「何をすれば日本社会の一員として評価されるのか」
を事前に示すものでもある。

永住・帰化は「権利」ではなく「信頼の到達点」

行政書士として、最も強調したいのはこの点である。

永住も帰化も、
単に日本に長く住んだ結果として当然に与えられるものではない。
それは、日本社会との間に、

  • ルールを理解し
  • 責任を果たし
  • 秩序を共有できる

という信頼関係が積み重なった結果として認められる地位である。

今回の意見書が描いている社会像は、
「誰でも歓迎する社会」でも
「外国人を締め出す社会」でもない。
秩序を共有できる人を、国籍を問わず社会の一員として受け入れる社会である。

行政書士の役割とは何か

制度が複雑になり、要件が明確化されるほど、
「知らなかった」「分からなかった」では済まされなくなる。

行政書士の役割は、
外国人と行政の間に立ち、

  • 何が求められているのかを正確に伝え
  • 不安や誤解を整理し
  • 将来を見据えた選択を支援する

ことである。

「外国人から日本の平和を守る」という言葉が、
排除のスローガンではなく、
秩序を共有する社会を守るという意味で理解されるよう、
制度の現場にいる専門家として、
これからも丁寧な説明を続けていきたい。

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